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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)11455号 判決

原告 斎藤省吾

被告 三上貞治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一、双方の申立

原告訴訟代理人は「被告は別紙目録〈省略〉記載の建物につき昭和二十八年一月二十日東京法務局受附第四五四号を以てなされた所有権取得登記の抹消登記手続をしなければならない」との判決を求め、被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた

第二、原告の主張

(一)  被告は東京都中央区西八丁堀一丁目三番地に家屋を建築して所有し昭和二十五年十月十八日東京法務局に申請し「家屋番号同町二番の二木造板葺二階建店舗一棟建坪十坪二階三坪」とし自己を所有者として保存登記をした

(二)  被告は昭和二十七年十月右家屋を桜井直一に売却し同月二十一日その所有権移転登記がなされた

(三)  昭和二十八年一月二十日東京法務局受附第四五四号を以て同日の売買により桜井より被告に対し所有権移転登記がなされた

(四)  右家屋は昭和二十七年十二月建築業渡辺弘平の施工によつて取毀されその跡に同人の施工により木造瓦葺モルタル塗二階建店舗兼住宅建坪十七坪余二階十五坪余が建築せられた右新家屋の建築に当り建築材料の極めて少部分(価格の比率千分の一以下)は同家屋の取毀板材を以てこれに宛てたゞけでその他は新規材料を使用して新家屋の建築は昭和二十七年十二月に着手せられ昭和二十八年三月頃完成した

(五)  右新家屋は桜井直一が建築を業とする日本電建株式会社に建築を請負わせ同会社は渡辺弘平に注文して建築されたものであつて桜井の所有である

(六)  前記(三)の所有権移転登記はその原因を缺くもので桜井は被告に家屋の所有権を移転したことはない

(七)  従つて桜井としては前記旧家屋につき減失登記をした上新家屋につき保存登記をすべきであつたところ右の如く被告の所有名義となりその後昭和二十八年十二月二日旧家屋につき「木造板葺二階建店舗兼居宅一棟建坪十六坪二合五勺二階三坪」とする変更登記がなされ、ついで同日同家屋につき別紙目録記載の通りの構造坪数とする旨の増築による変更登記がなされた

(八)  従つて別紙目録記載の通りとされた増築による変更登記は現在においては建物の現状に合致する登記であり新家屋の登記として有効である

(九)  原告は昭和二十七年十二月桜井に対し金七十万円を期限一箇月の定めで貸与しその後期限を延長して昭和二十八年十二月三十日とした桜井は右新家屋の外資産がないので原告は債権者代位権により桜井に代位して被告に対し右(三)の移転登記の抹消を求める

第三、被告の主張

(1)  原告主張(一)の事実は認める

(2)  原告主張(二)の事実中売買は否認するが登記は認める

(3)  原告主張(三)(四)の事実は認める

(4)  原告主張(五)の事実は否認する

(5)  原告主張(六)の移転登記が原因を缺くことは認める

(6)  原告主張(七)の変更登記及び増築による変更登記は認める

(7)  旧家屋の取毀しは毀しつぱなしでなく新家屋建築のためのものであるから取毀しがあつても旧建物と新建物とは同一性を有する

(8)  原告主張(九)の事実中原告と桜井との貸借は不知、桜井が資産を有しないことは認める

第四、証拠〈省略〉

第五、理由

不動産登記簿に登記された家屋が取毀されその跡に新家屋が建築された場合には右登記簿は減失登記によつて閉鎖され新家屋につき新たな保存登記がなさるべきであつて従前の登記簿になされる減失登記以外の登記は無効であり、減失登記の代りに変更登記がなされ登記簿の表題部の家屋の構造坪数が新家屋のそれに合致するように変更されたとしてもその変更登記は無効である

従つて原告の求める抹消登記を仮に許すとしても桜井直一は新家屋につき無効な変更登記簿上の所有名義を恢復するに過ぎないから原告の債権の保全に役立たない

よつて債権者代位権による原告の請求を理由なしとして棄却し主文の通り判決する

(裁判官 磯村義利)

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